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  4. 2016年度秋学期
  5. 人権保障の原理Ⅱ/現 代 人 権 論 ― 尾形 健

人権保障の原理Ⅱ/現 代 人 権 論 ― 尾形 健

 第1問 次の文章を読んで、正しければ○で、誤っていれば×で答えて下さい。答えは、右下の解答欄に記入して下さい。※1問5点(合計50点)

※以下、大石眞=大沢秀介編『判例憲法』(有斐閣刊/第2版2012年・第3版2016年)を「教科書」と引用し、第2版・第3版の各該当頁を示しておきます。また、判例の引用については、教科書登載のものは教科書の該当頁のみ示し、教科書に登載されていないものについて判決年月日・登載判例集等の出典を示しておきます。

 

(1) 最高裁判例によれば、憲法36条で禁止される「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的・肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を意味するが、死刑は、直ちに同条にいう「残虐な刑罰」に該当するとは考えられない。

〔答え〕○。最高裁判例の趣旨とするところです(最大判昭23・6・30刑集2巻7号777頁、最大判昭23・3・12刑集2巻3号191頁。教科書第3版90頁、第2版87頁参照)。

 

(2)最高裁判例は、財産権制限立法の合憲性判断について、規制目的二分論の考え方を採用しているが、森林法共有林分割請求事件で、森林法の問題となった規定を積極目的規制と解し、緩やかな司法審査によってこれを合憲とした。 

〔答え〕×。森林法共有林分割請求事件(教科書第3版224頁、第2版222頁)は、森林法の共有林分割請求制限規定について、その立法目的が森林の細分化防止等によって森林の経営安定、森林の保続培養・生産力増進を図り、もって国民経済の発展に資することにあるとして、これを公共の福祉に合致しないことが明らかであるとはいえないとしてその正当性を肯定しつつ、規制手段として合理性・必要性を肯定できないとして違憲としました。また、財産権制約事案において、最高裁が規制目的二分論に立っているかについては、今日では疑問が提起されています(教科書第3版225頁、第2版223頁。証券取引法合憲判決・最大判平14・2・13民集56巻2号331頁、第4回(経済的自由(4)財産権保障①総説)配布資料参照)。

 

(3)最高裁判例によれば、職業の自由に対する規制措置の合憲性については、規制の目的・必要性・内容、これによって制限される職業の自由の性質・内容・制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で決定する必要があるが、この検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務である。

〔答え〕○。薬局距離制限事件(教科書第3版218頁、第2版216頁)は、職業の自由の規制措置の合憲性についてこのように述べた上で、立法府の裁量の範囲については「事の性質上おのずから広狭がありうる」として、具体的規制措置の性質・内容等に照らして、裁判所による審査がありうることを示しました。

 

(4)三菱樹脂事件最高裁判決によれば、憲法22条・29条等において経済活動の自由が基本的人権として保障されているから、企業は、経済活動の一環として契約締結の自由を有する。

〔答え〕○。三菱樹脂事件(教科書第3版42頁、第2版43頁)の趣旨とするところです(第1回(ガイダンス/経済的自由(1)契約の自由と労働者の権利)配布資料、教科書第3版211頁、第2版209頁)。

 

(5)最高裁判例によれば、厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急やむを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認める刑事訴訟法210条の緊急逮捕制度は、憲法33条の規定の趣旨に反しない。

〔答え〕○。最高裁判所の判例とするところです(森林法違反事件・教科書第3版103頁、第2版100頁参照)

 

(6)最高裁判例によれば、憲法17条を受けて制定された法律の規定の合憲性については、その法律が、公務員の不法行為についての国等の損害賠償責任を無条件・無限定に否定するか、またはほとんど否定するに等しいような、著しく不合理な内容であって、国会に与えられた立法裁量の範囲を逸脱していることが明らかな場合を除き、直ちに違憲無効の問題を生ずるものではない。 

〔答え〕×。郵便法事件(教科書第3版241頁、第2版238頁)は、憲法17条について、「……公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び,公務員の行為の国民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって,立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない」、として、その具体化について立法裁量を認めつつも、「白紙委任」的な広汎な裁量を認めることを否定しています。その上で、「公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し,又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは,当該行為の態様,これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度,免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである」、としています。このため、設問文のように「著しく不合理な内容であって、国会に与えられた立法裁量の範囲を逸脱していることが明らかな場合」に違憲となりうるといった、立法裁量を極めて広く尊重する姿勢を示していません(なお、設問文に近い見解は、郵便法事件第一審判決・神戸地裁尼崎支判平11・3・11民集56巻7号1472頁で示されています)。

 

(7)最高裁判例によれば、純然たる訴訟事件の裁判とはいえない非訟事件であっても、その性質上当事者の主張する権利義務の存否を確定する裁判に等しいから、公開の法廷における対審及び判決によって裁判がなされないとすれば、憲法82条・32条に反する。

〔答え〕×。最大決昭35・7・6民集14巻9号1657頁は、「若し性質上純然たる訴訟事件につき、当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法82条に違反すると共に、同32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない」、として、憲法82条・32条の要請が「純然たる訴訟事件」について妥当することを明らかにしています(第8回(国務請求権)配布資料参照。教科書第3版356頁・第2版353-354頁参照)。

 

(8)最高裁判例によれば、衆議院議員の選挙制度の仕組みの具体的決定は、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、国会の裁量にゆだねられており、国会が衆議院議員選挙の一つの方式として小選挙区制を選択したことについても、このような裁量の限界を超えるといわざるを得ない場合に、初めて憲法に違反することになる。

〔答え〕○。衆議院議員選挙制度事件(教科書第3版273頁、第2版271頁)の判旨とするところです。

 

(9)行政裁量の裁判所による統制手法として、行政の判断・決定に至る過程の合理性について審査する裁量統制手法(行政判断過程統制)が用いられることがあるが、最高裁は、生活保護法の老齢加算が段階的に減額・廃止されたことが違憲・違法であるとして争われた事案で、この手法を採用した。

〔答え〕○。第10回(社会権(1)生存権保障)配布資料掲載の、生活保護老齢加算廃止違憲訴訟(最三判平24・2・28民集66巻3号1240頁)参照(教科書第3版235頁、第2版233頁も参照)。

 

(10)選挙権の法的性質については、選挙権の権利としての性格を重視する考え方と、公務としての性格を重視する考え方があるが、在外邦人選挙権事件は、権利としての性質を重視して判断している。

〔答え〕○。在外邦人選挙権事件(教科書第3版248頁、第2版245頁)は、選挙権の憲法上の重要性を強調しています(教科書第3版247頁、第2版245頁も参照)。

 

 第2問 次の事例を想定して下さい。歴史都市として知られるK市は、K市に関する知識や様々な経験を通じ、K市の伝統・文化を学習する機会を設けるべきであるとして、K市内の市立中学校の全生徒を対象に、「K市子ども観光文化検定」を実施することとし、K市教育委員会は、各学校長宛に、2016年1月30日に、本件検定試験を対象生徒全員に受検させるべき旨の通知を発しました。自身の子をK市立A中学校に通学させているXは、この検定試験の一斉実施は、公権力による教育への不当な介入ではないか、と考えています。

 Xはどのような憲法上の主張ができるでしょうか。子どもの学習権と、教育における国家の役割について、具体的事例を挙げつつ論じた上で、Xの立場に立って論じて下さい。※配点50点

 〔解説〕今回は、教育における国家の役割についての理解を問う出題をしました。全国各地で、いわゆる「ご当地検定」が広く実施されていたことがありましたが、京都市教育委員会が、いわゆる「京都検定」の子ども向けのものとして、「歴史都市・京都から学ぶジュニア日本検定」の実施を各小学校に対し依頼し、これにかかる公金支出が争われた事例があり、今回はこれを素材としています(京都地判平22・3・28LEX/DB25442082。事案の詳細は、速報判例解説編集委員会編『速報判例解説』vol.8〔2011年4月〕19頁〔尾形健執筆〕を参照して下さい)。

 解答に当たっては、(1)①子どもの学習権を、旭川学力テスト事件を手がかりに述べ、(2)教育制度のあり方について、②教育権の所在をめぐる議論などにふれつつ、教育における国家の役割について述べた旭川学力テスト事件の趣旨を確認し、③教育における国家の具体的役割が問題となった事例として、教科書検定制度の合憲性(第一次教科書検定事件)や学習指導要領の法的拘束力の問題(伝習館高校事件)などを押さえる必要があるでしょう(以上については、教科書第3版203頁以下・第2版200頁以下、および第11回(社会権(2)教育の自由とその保障)配布資料参照)。そのうえで、(3)本件事案に即して、あなた自身の見解を述べることが求められます。

 上記(1)〜(2)の説明部分は、それぞれの論点や事例について、どこまで正確な理解をしているかが、評価を大きく分ける点となりました。事案や判示事項について、十分な理解と丁寧な論証が求められる部分です。とりあえず事件名等は挙げるものの、内容理解がおよそ不正確であったり不十分であったりした答案については、低い評価となりました(また、事件名等の記載は正確を期して下さい。「旭日川学力テスト事件」や「朝日川学力テスト事件」などとするものも散見されました)。(3)の見解部分については、以上の点をふまえつつ、国家(ここでは地方公共団体の機関)は教育に対して必要かつ相当な(または合理的な)範囲において介入しうる、という枠組みを前提に、テスト実施の目的の正当性と、そのためにとられた手段の必要性・合理性等を自分なりに論じていくことが求められます。

 なお、一部の答案では、昨年の出題に関わる内容を、本問とは無関係に論じるものがみられましたが、およそ出題趣旨に答えていないという意味で論外です。広く謙虚に学修する姿勢を心がけて下さい。

〔解答例〕本件の検定試験の一斉実施を争うためにXが主張すべき憲法上の主張には、(1)子どもの学習権についてと、(2)教育における国家の役割についての主張があると考えられる。以下、順次論じる。

(1)子どもの学習権の主張についてであるが、これは、自分一人では学習することができない子どもが、学習欲求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利とされ、憲法26条の背後には、国民各自が一個の人間として、また、一市民として、成長・発達し、人格を完成・実現するために必要な学習をする固有の権利を有することがあるとされている(旭川学力テスト事件)。これをふまえると、本件検定試験が、他の授業時間を割いてまで実施されることが予定されていた場合には、この子どもの学習権を根拠として、Xはその授業時間で行われるはずの授業を実施するよう、請求することができるはずであり、それを認めない本件検定試験の一斉実施は、憲法26条の趣旨に反する、との主張が考えられる。

(2)次に教育における国家の役割について論ずると、教育に関しては、誰がその内容や方法について主導的役割を担うべきかについて、主張の対立がある。第一の立場は、「国家の教育権」説であり、これによれば、国家が、法律の制定等を通じ、教育の内容や実施方法について包括的に定めることができるものとされる。第二の立場は、「国民の教育権」説であり、これによれば、教師等の国民が、教育の内容や実施方法の決定について主導的な役割を担うべきであるとされる。しかし最高裁は、旭川学力テスト事件判決において、そのいずれも「極端かつ一方的」であるとして、上記二つの立場を斥け、国家・親・教師それぞれについて教育の実施等について担うべき役割があることを示した。その上で、同判決は、国は適切な教育政策を樹立・実施すべく、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容について決定する権能があるとした。その後、教科書検定制度の合憲性が争われた第一次教科書検定事件では、教育内容・方法について「必要かつ合理的と認められる規制」を施すことは違法ではないとされるなど、旭川学力テスト事件の枠組みは基本的に維持されている。また、学習指導要領の法的拘束力が問題となった伝習館高校事件では、その法的拘束力を肯定しており、これらの判例をふまえると、国家は、教育内容・方法について、必要かつ相当な(合理的な)範囲で決定しうることが判例の前提となっていると解され、その範囲は広いものと考えられる。ただし、誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育をするなど、子どもの学習権保障の趣旨に反する教育の実施は、憲法26条等に照らして許されないといえる(旭川学力テスト事件)。

(3)以上をふまえ、本件について考える。K市教育委員会は、必要かつ相当な範囲で教育内容・方法等について決定することが認められるといえる。しかし、本件検定試験で問われる内容は、通常中学校の学習上必要性が高い事項を学ぶものということはできず、子どもの学習権の趣旨に照らしても実施の正統性が疑わしく、必要性について根拠が疑わしいといえる。また、本件検定試験は、生徒に対し一斉に受検を強制するものであり、相当な程度での介入ということは困難である。K市に関する知識等を学習するのであれば、このような検定試験の一斉実施ではなく、課外活動等で学習の機会を設け、生徒の自主的な学びを支えるなど、憲法26条の趣旨に沿う代替手段はありうるはずである。これらをふまえると、Xは、国家(K市教育委員会)が本件検定試験を一斉に受検させることにより、教育について、必要な範囲を超え、かつ相当でない範囲で介入し、もって子どもの学習権保障の趣旨に反する教育を実施したものとして、国家に認められた教育にかかる裁量権を濫用し、本件受検は違憲である、と主張することができる。