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  4. 2016年度秋学期
  5. 憲 法 訴 訟/裁判所と憲法訴訟 ― 尾形 健

憲 法 訴 訟/裁判所と憲法訴訟 ― 尾形 健

 第1問 次の文章を読んで、正しければ○で、誤っていれば×で答えて下さい。解答は、右下の解答欄に記入して下さい。※1問5点(合計50点)

※以下、大石眞=大沢秀介編『判例憲法』(有斐閣刊/第2版2012年・第3版2016年)を「教科書」と引用し、第2版・第3版の各該当頁を示しておきます。また、判例の引用については、教科書登載のものは教科書の該当頁のみ示し、教科書に登載されていないものについて判決年月日・登載判例集等の出典を示しておきます。

 

(1)最高裁判例によれば、単に宗教上の地位の確認を求めるにすぎない訴えは、法律上の権利関係の確認を求めるものとはいえず、したがって、このような訴えは、その利益を欠くものとして却下を免れない。

〔答え〕○。慈照寺事件(最一判昭44・7・10民集23巻8号1423頁)の判旨とするところです(第2回・第3回(司法権の範囲・限界)配布資料参照)。

 

(2)違憲審査制については、憲法裁判所という特別の裁判所を設け、そこに違憲審査を行わせるものと、通常の司法裁判所に違憲審査を行わせるものとがあるが、それぞれの特徴と両者の違いは理念的なものであり、相対的であるとの指摘がある。

〔答え〕○。第3回(違憲審査制(1)総論)配布資料のほか、教科書第2版345頁、第3版347-348頁も参照。

 

(3)わが国の違憲審査制は、具体的事件を前提に違憲審査権を行使する付随的違憲審査制であるとされているが、法規の客観的適正を保障しまたは一般公共の利益を保護することを目的とする、いわゆる「客観訴訟」は、理論的には、付随的違憲審査制と両立しない面があることが指摘されている。

〔答え〕○。客観訴訟が付随的違憲審査制を採用するわが国違憲審査制と整合的であるかについては、議論があります(第4回(違憲審査制(2)付随的違憲審査制))配布資料、教科書第2版338-339頁、第3版340-341頁参照)。

 

(4)具体的事件につき当事者適格のある者が、攻撃・防禦の方法として違憲の主張を提起する適格(憲法訴訟の当事者適格)について、訴訟当事者は、自身の憲法上の権利のみを主張することができ、第三者の権利を援用することは、付随的違憲審査制の下ではおよそ認められない。

〔答え〕×。理論的には、一定の場合には第三者の憲法上の権利を援用することも許容されると考えられてきました。また、わが国の判例でも、これを肯定したものがあります(第三者所有物没収事件・教科書第2版88頁、第3版91頁参照。以上につき、第5回(憲法訴訟の方法(1)憲法訴訟の当事者適格)配布資料参照)。

 

(5)裁判所が、当該訴訟で問題となる法律について、その立法事実の存在が推定され、合憲であるとの推定の下にこれを適用するという原則(合憲性推定の原則)は、経済的規制立法について妥当するが、参政権や精神的自由を規制する立法については妥当しない、とする考え方がある。

〔答え〕○。第6回(憲法訴訟の方法(2)裁判所の憲法判断のあり方)配布資料参照。

 

(6)条約が違憲審査の対象となるかについて、最高裁判例によれば、条約はわが国のみでその効力を否定することができないから、裁判所の違憲審査は一切及ばないとしている。

〔答え〕×。砂川事件(教科書第2版390頁、第3版393頁)では、条約に対する違憲審査が可能という前提に立った上で、日米安全保障条約等の国の存立の基礎に重大な関係を持つ条約については、一見極めて明白に違憲無効な場合を除き司法審査権の範囲外であるとしました(教科書第2版10頁、第3版11頁のほか、第7回(憲法判断の対象(1)総説)配布資料参照)。

 

(7)猿払事件第1審判決は、国家公務員法等による政治的行為の制限について、この規定は制限解釈を加える余地が全く存しないので、規定そのものが憲法違反であるという法令違憲の判断をした。

〔答え〕×。猿払事件第1審判決は、合憲的適用の場合に限定することが解釈上不可能である法令が、違憲的適用の場合も含むような広い解釈の下に、具体的事件に適用された場合に、その限度において違憲となる、とする適用違憲の例として知られています(教科書第2版45-46頁・350頁、第3版45頁・352-353頁、第9回・第10回(憲法判断のあり方(1)法令違憲・適用違憲をめぐって)配布資料参照)。

 

(8)ある法律の合理性を支える社会的・経済的・文化的な一般的事実である立法事実が、その後、実際の状況にそぐわなくなった場合でも、裁判所は、立法当初の立法事実の認定に拘束されると解されている。

〔答え〕×。ある法律に関する立法事実が肯定されたとしても、時代状況の変容により、それが現在の時点では妥当しなくなった場合、裁判所は、当該法律の合理性を支える事実が存在しないとして、立法の必要性・合理性を否定することがあります(第10回(憲法判断の方法 法令違憲・適用違憲をめぐって/立法事実の意義)配布資料参照)。

 

(9)違憲判決の効力については、個別的効力説が通説とされ、このため、現在の実務上、最高裁判所が法律を違憲とした場合、その判決書が国会・内閣に送付されることがない。

〔答え〕×。最高裁判所裁判事務処理規則によれば、最高裁判所が法律が憲法に適合しないと判断したときは、その裁判書の正本を内閣だけでなく国会にも送付することとされています(14条)。こうしたことから、現在の実務は、純然たる個別的効力説に立つものではない部分があるといえます(第11回(憲法訴訟の帰結(1)違憲判決の効力・総論)配布資料参照)。

 

(10)最高裁判例によれば、最高裁判所の違憲判断が解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは著しく法的安定性を害することになる場合には、違憲判断の効果(事実上の拘束性)を限定し、法的安定性の確保との調和を図ることが求められる。

〔答え〕○。非嫡出子相続分規定違憲訴訟(最大決平25・9・4民集67巻6号1320頁、教科書第3版82頁参照)の判示するところです(第12回(憲法訴訟の帰結(2)憲法判例の効力をめぐって)配布資料参照)。

 

 第2問 裁判所による違憲審査の対象として、(1)立法不作為の違憲性と(2)統治行為についての審査が問題となります。それぞれ具体例を挙げつつ論じてください。※配点50点

〔解説〕今回は、裁判所による違憲審査の対象となる国家行為のうち、(1)立法不作為の違憲性と、(2)統治行為論について、代表的な判例を押さえつつ論じてもらう出題をしました(第8回・第9回(憲法判断の対象(2))配布資料、教科書第2版347頁以下、第3版349頁以下参照)。

 (1)立法不作為の違憲性については、①立法不作為が問題となる場面と訴訟のあり方、②判例の具体的展開について押さえることが求められます。特に、②については、在宅投票制度制事件、在外邦人選挙権制限違憲訴訟、再婚禁止期間違憲訴訟に至る判例の展開をどこまで正確に理解できていたかが大きく評価の分かれるところでした。また、(2)については、①統治行為論の意義、②判例の具体的展開、③統治行為の論拠と、統治行為論の問題点について説明することが求められます。特に、②については、砂川事件・苫米地事件を挙げつつ、両者の異同等について、どこまで正確に理解できていたかが大きく評価の分かれるところでした。とりあえず事件名等は挙げるものの、内容理解がおよそ不正確であったり不十分であったりした答案については、低い評価となりました。また、一部の答案では、昨年の出題に関わる内容を、本問とは無関係に論じるものがみられましたが、およそ出題趣旨に答えていないという意味で論外です。広く謙虚に学修する姿勢を心がけて下さい。

〔解答例〕

1.(1)立法不作為とは、国会がある立法をすべきであると考えられるのにしないことをいい、例えば、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」とする憲法10条のように、憲法自身が一定の法律を制定することを要請しているのにそれが制定されていない場合や、憲法25条にいう健康で文化的な最低限度の生活よりも低い保障水準の立法がなされたような場合にその違憲性を争うことができるか、といった、憲法解釈上問題となる場合等がある。

(2)訴える途としては、①行政事件訴訟法による公法上の確認の訴えがまず考えられる。これについて、在外邦人選挙権訴訟において、最高裁は、選挙権は、事後的に救済されても意味がなく、その権利の重要性に照らし、それが有効適切な手段であると認められる限りは、確認の利益が認められるとした。

 もう一つの訴える途として、②国家賠償請求訴訟が考えられる。これについて、在宅投票制事件で、最高裁は、国会議員は、立法については国民との間で政治的責任を負うにとどまり、憲法の一義的な文言に反してあえて立法を行うような容易に想定しがたい場合でない限り、国賠法上違法とはならないとしたが、前掲の在外邦人選挙権訴訟において、憲法で保障された権利を侵害することが明白な場合や、憲法上の権利行使の機会を確保するために立法を行うことが必要不可欠でそれが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合には、例外的に国賠法上違法となるとして、立法不作為の違憲性が認められる範囲を実質的に拡大した。その後、再婚禁止期間違憲訴訟において、憲法上保障された権利や保護された利益を合理的な理由もなく侵害するものとして憲法違反であることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって立法を行わない場合に、例外的に国賠法上違法となるとされたが、これについては、同判決の補足意見において、それ以前の二つの判決で示された枠組みは、その事件で必要な範囲で示されたものであり、今回の判決で整理し直された枠組みは、今後、一般的基準として使われるであろうことが示唆されている。

2.(1)統治行為とは、国の統治機構に関わる高度に政治的な行為をいい、具体的には安全保障に関する措置等がこれにあたる。ある行為が統治行為といえるためには、①立法府・行政府の行為であること、②高度に政治的なものであること、③「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)であることなどが求められ、これらの行為は、一般に司法審査に馴染まないとされる。

(2)統治行為が問題となった判例としては、日米安全保障条約の合憲性が問題となった砂川事件があり、同判例において最高裁は、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、裁判所による審査の対象とはならないと判示した。また、衆議院の解散の憲法適合性が問題となった苫米地事件において、最高裁は、衆議院の解散は高度に政治性を有するものであるとして、司法審査を全面的に排除する判決を下した。しかし、後の判例(沖縄県知事代理署名拒否訴訟等)をみると、苫米地事件のように司法審査を全面的に排除する姿勢を最高裁判所がとっているとはいいがたい面もあるとの指摘がなされている。

(3)統治行為論については、様々な問題点が指摘されている。つまり、高度の政治性を有する国家行為について、司法審査を全面的に排除するのではなく、国会や行政の裁量の問題としてとらえるべきではないか、との指摘がある。これによると、裁判所は、問題となる行為の内容や性質、裁量の広狭、司法審査を行うことに伴うリスクや権利侵害の必要性等を考慮した上で、個々の事件ごとに司法審査をどの程度行うか、あるいは行わないかを判断すべきであると考えられる。