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刑 法 各 論Ⅱ/経済活動と刑法各論 ― 松原 久利

出題意図

 本問は、奪取罪(財産移転罪)の保護法益の理解、およびそれが刑法242条の「占有」の解釈に及ぼす影響についての正確な理解を問う問題である。奪取罪の保護法益については、占有説、本権説、平穏占有説が対立するが、その原因がどこにあるのか。刑法の目的・機能との関係において、奪取罪は何を保護すべきであるのか。民法とはどのような関係にあるべきか。そこから、刑法242条の「占有」の解釈をめぐる対立との関係を論じ、いずれの考え方が妥当であるのかを明らかにすることが重要である。

 刑法が保護すべき財産を個々の財産権とする法律財産説からは、刑法は民法に従属すべきであり、奪取罪の保護法益は本権であり、刑法242条の「占有」とは正当な権限に基づく占有をいうことになる。これに対して、刑法が保護すべき財産を経済的利益それ自体とする経済的財産説からは、刑法は民法から独立して考えるべきであり、奪取罪の保護法益は占有であり、刑法242条の「占有」とは事実上の占有をいうことになる。

 本権説については、犯人が経済的利益を取得し、被害者がそれを失っていても財産的侵害はないことになり、また、自力救済が多発し、財産秩序はかえって混乱することになるという問題がある。これに対して、占有説については、明らかに違法な利益を保護することになり、刑法の本来の目的に反するという問題がある。法益保護を通じた社会秩序の維持という刑法の目的からは、法秩序によって承認されている利益を保護すべきであり、この意味で本権説によるべきであるといえるが、取引関係の複雑化した現代においては、権利・義務関係の確定は容易ではない。そこで、事実上法の直接の非難を受けずに存在している利益、一応適法な利益を財産と解すべきであり(法律・経済財産説)、民事上の実体的権利関係の最終的な確定を要しない場合がありうる。そこから、刑法242条の「占有」とは権利を主張することに一応合理的な理由がある「平穏な占有」をいうと解すべきであるということになる(平穏占有説)。

 以上のような関係について、論述を論理的に展開することが重要である。

 

 2は、奪取罪の保護法益の理解が具体的に問題となる3つの事例について、1で論じた理解を前提とすると、どのような解決が導き出されるのかを、論理的・説得的に展開できるかを問う問題である。(1)は財物の所有者の恐喝手段による取り戻しの場合、(2)は窃盗犯人から第三者が窃盗する場合、(3)は禁制品の窃盗の場合である。

 (1)は恐喝罪の成否が問題となり、本権説によれば、返却期限を過ぎているYの占有は本権に基づくものではないとして、242条の適用はなく「他人の財物」ではないから恐喝罪の構成要件に該当しないとも考えられる(手段が脅迫罪となる可能性はある)。これに対して占有説によれば、恐喝罪の構成要件該当性は否定できない。ただし、権利行使として違法性が阻却される可能がある。平穏占有説からは、いずれの構成も可能である。

 (2)は窃盗罪の成否が問題となり、本権説によれば、Yの占有は正当な権限に基づく適法な占有ではないから窃盗罪は成立しないことになりそうであるが、所有権を再度侵害するとして窃盗罪の成立が認められている。占有説によれば、Yの占有が違法であっても窃盗罪の成立が認められる。平穏占有説からは、Yの占有は平穏な占有であるとして、あるいはYにはAに返還する義務があり、その履行のためには無関係な第三者であるXとの関係ではなお保護すべきであるから平穏な占有があるとして、窃盗罪の成立が認められる。

 (3)は窃盗罪の成否が問題となり、本権説によれば、禁制品の占有は正当な権限に基づく占有ではないから窃盗罪は成立しないとも考えられる。これに対して、占有説によれば、事実上の占有が認められる以上、窃盗罪が成立することになる。平穏占有説によれば、あるいは本権説からも、禁制品といえども法律上の手続きを踏まなければ没収されないという限りで正当な占有であり、また禁制品は国家が正当な手続きにより没収できることを意味するにすぎず、私人による侵害に対してはなお保護に値するとして、窃盗罪の成立が認められる。

 以上のような結論に至る論理を、1で論じた保護法益との関係において整合的・説得的に展開することが重要である。

 

講評

1 奪取罪の保護法益に関する学説の対立については、比較的よく論じられていた。その中でも、刑法で保護すべき財産、刑法の目的、刑法が果たすべき機能、民法との関係から、刑法242条の「占有」の解釈について論じた答案には高い評価が与えられた。これに対して、学説の対立を示すのみの答案、判例が占有説を採ることのみを理由として占有説によるべきであるとする答案、根拠を示すことなく特定の考え方を採用する答案には、高い評価は与えられない。

 また、保護法益に関する考え方と刑法242条の「占有」の解釈との関係が明らかでなく、法益に関する論述とは無関係に「占有」の解釈を論じる答案が散見されたが、そこを論じることが重要であることに注意してほしい。

 さらに、判例が占有説を採用するとしている点について、その結論が平穏占有説と矛盾するものとはいえないことにまで言及する答案があり、よく勉強されていると感心させられた。学説の対立する論点については、その背景を考えて、それぞれの利害得失を考慮したうえで自己の考え方を導き出すという思考が重要であることに留意してほしい。

 

2 2は、「1の解答を前提として」論じることが重要であるが、 1で平穏占有説を採用しながら、2では占有説に基づいて論じている答案、1の解答を「前提」としていない、奪取罪の法益との関係が明らかでない答案が散見された。このような答案には高い評価は与えられない。

(1)は恐喝罪の成否が問題となるが、違法性阻却を論じる前提として、恐喝罪の構成要件該当性を示していない答案、本権説から、恐喝罪不成立としながら、その根拠が示されていない答案が散見された。これに対して、本権説によると自救行為が多発する、また強盗によって取り戻した場合にも暴行・脅迫罪しか成立しないことになるとの問題点があること、占有説によると刑法の目的に反し、共罰的事後校が説明できない、違法性で絞りをかけることはできないはずであるとの問題点を的確に指摘し、権利行使による違法性阻却の要件として、権利の存在、権利行使の目的、手段の必要性・相当性を示したうえで、問題文に当てはめて、無罪あるいは恐喝罪成立の結論を導き出している答案には高い評価が与えられた。通常、権利行使と恐喝罪の成否の問題として論じられるが、財物の取り返しの場合は、奪取罪の保護法益に関する考え方の対立が反映されることに注意してほしい。

 (2)は窃盗罪の成否が問題となるが、1で占有説を採用した場合には当然窃盗罪が成立することになる。この場合に明白に違法な利益を保護することになるという批判に答えていない答案には高い評価は与えられない。また、本権説の立場から窃盗罪の成立を肯定する根拠として、Aの所有権を侵害するとする答案が散見されたが、これは盗品罪ではないのかとの反論が予想されるところであり、さらに検討が必要であることに注意してほしい。これに対して、窃盗犯人には対抗できないが、所有者に返還する義務があり、第三者との関係ではなお占有に正当な利益があるとして窃盗罪成立の結論を導き出した答案には高い評価が与えられた。

 なお、この問題を、窃盗犯人からの所有者による取り戻しの事例と誤解して論じた答案が散見された。注意して問題文をよく読んで解答することを心掛けてほしい。

 (3)は禁制品についての窃盗罪の成否が問題となる。いずれの見解からも窃盗罪の成立が認められているが、占有説に対しては、ここでも明白に不法な利益の保護という問題に答えるべきであろう。また、本権説、平穏占有説については、正当な権限に基づくとはいえない占有ではないかという批判に答えている答案には高い評価が与えられる。

 以上のように、財産罪全体について妥当する財産概念、保護法益、奪取罪の保護法益という抽象的な論点が、具体的にどのような場面で問題となるのかということに注意しながらこの問題を検討すると、困難な問題が数多くある財産罪の理解が進むと考えられるので、抽象的な規範命題から具体的問題の解決という具体化へ、具体的問題解決から一般原理・原則の発見という抽象化へということをイメージして勉強を進めてほしい。