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法律学科
不作為処罰の比較法的検討
准教授 池田 直人 IKEDA Naoto, Associate Professor
専門分野 | 刑事法
Criminal Law |
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研究室 | 光塩館525 |
業績リスト List of Research Achievements |
私の研究
犯罪は、通常、人を殴る、包丁で刺すといったように、積極的な作為によって遂行されますが、親が子に食事を与えない、自動車で轢いた人を救護しないといったように、一定の行為を行わない不作為によっても遂行できます。私の研究テーマは、不作為に対する処罰の在り方を比較法的に検討することです。日本の刑法典には、不退去罪や保護責任者不保護罪のように、不作為を処罰する旨が明文で規定されている犯罪もありますが、殺人罪をはじめとする多くの犯罪では、そのような明文の規定はありません。後者の場合について、現在では、被害者を保護すべき社会的関係にある者、または、犯罪を直接遂行する者の犯行を阻止すべき社会的関係にある者が、自己に課された義務に違反したことをもって、不作為による犯罪が成立する、と考えられています。
そして、不作為の処罰が求められる場面には、親が子に食事を与えないという継続的な人間関係に関する事案から、自動車で轢いた人を救護しないというその場限りでの人間関係に関する事案まで、様々なものがあります。不作為に対する処罰の在り方を考えるには、こういった多彩なニーズを踏まえ、各事案の特徴に応じたルールを模索する必要があります。私は、このような観点から、日本法と基本的な法概念を共有するドイツ語法圏の議論を中心に研究しています。
また、ドイツ語法圏には、被害者の生命等の重要な法益に危険が切迫している状況では、被害者と特に関係のない一般市民に対しても救護を義務付ける犯罪が存在します。日本では、伝統的に、この種の犯罪は規定されていませんでした。しかし、近時では、市民間の連帯を通じて弱者を保護する、というコンセプトが重視されています。虐待の被害児童を発見した市民に広く通報を義務付ける規定は、その最たる例でしょう(児童虐待防止法6 条1項、4条8項)。近い将来、日本でも、ドイツ語法圏と同様の犯罪の新設が立法問題になるかもしれません。
将来の立法に備えて、諸外国の処罰規定についての知見を蓄積し、ありうる立法の方向性を提言することもまた、刑事法研究者に期待される重要な社会的役割の一つといえます。私は、このような観点から、一般市民の不作為を処罰する規定に関する研究も進めています。
講義・演習・小クラスについて
本年度は、講義科目として、「リーガル・リサーチ」「刑法概論」「刑法総論I」「刑法総論II」を担当します。「刑法総論I・II」では、現在の日本の刑事実務において刑事実体法がどのように運用されているのかを重視し、各種の資格試験にも十分に対応可能な知識を習得することも見据えながら、刑法総論に関する諸問題を体系的に解説します。
また、演習科目として、「2年次演習」「3年次演習」「4年次演習」を担当します。「2年次演習」では、「刑法総論I・II」で取り扱った重要判例を、調査官解説を踏まえつつ、第一審から精読することを通じて、刑事判例の取り扱いに習熟することを目指します。「3年次演習」「4年次演習」では、刑事法に関する重要なトピックについてより専門的な議論を学びます。