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法律学科
民事訴訟法を通じて人生を考える
-「精神の風が、粘土の上を吹いて…」
教授 川嶋 四郎 KAWASHIMA Shiro, Professor
| 専門分野 | 民事訴訟法
Civil Procedure, Evidence, Law of Remedies, Bankruptcy, Judicial System |
|---|---|
| 研究室 | 光塩館501 |
| 業績リスト
List of Research Achievements |
私の研究:学生の皆さんへ
私は、これまで民事訴訟法を中心として、民事執行・保全法、倒産法、ADR(裁判外紛争解決手続)、裁判所法等をも包含する「民事救済法」という法領域を構想しつつ研究し、その成果をもとに教育に携わってきました。「インクルーシブな民事訴訟法学」を創造するささやかな試みです。それは、「誰一人取り残さない」包摂的で温かな指針を意味しています。国連において全会一致で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の基礎にある考え方です。私の専門領域では、「正義の声」(2001年『司法制度改革審議会意見書』)をあげ法的な救済を求めて紛争解決手続を利用する人々や企業等が、誰一人取り残されることなく、手続過程における十分な対論を通じて、どのように「公正な法的救済」を得ることができるかを探求する果てしなき営みなのです。それは、「民主司法の公正な救済形式」の探求と呼ぶこともできると思います。さて、2025年は思いがけないことがあまりに多く、予定していた計画をほとんど進めることができませんでした。数年前から日本学術会議の法人化問題に巻き込まれ、いわば寝ても覚めても学術会議だったと言えます。「これが戦後だ。どんなに幸福な瞬間にも、ひと皮むけば血まみれの過去が顔をのぞかせている」(森絵都『デモクラシーのいろは』)…そのような戦後間もなくの頃、心に傷を負った良心ある科学者たちが、自省の遺言執行のごとく作ったのが、このナショナル・アカデミーだったのです。日本弁護士会連合会や数多くの学協会、さらには日本ペンクラブ等の各種団体が、新法案に反対の声明を出してくれたにもかかわらず、私の所属する学協会が沈黙していたのは(多くの裁判官が所属している学会であるとしても、アカデミーである以上)遺憾です(憲法23条・19条等参照)。
オアシスのようなタシケントやサマルカンドも、霧雨の霞が関や曇天の甲賀も、快晴の鈴鹿の山並みも、嵐の後の台湾・嘉義も、晩夏の亀山も、初秋の神戸も、晩秋の浄瑠璃寺も、初冬の関の町並みも、大切な人を亡くした日々と共に走馬灯のように過ぎ去りました。そして、日本学術会議も、戦後80年の節目に換骨奪胎されてしまいました。かの夏を西武大津に捧げた高校の後輩、成瀬あかり(宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』ほか2冊)にも、率直な意見を聞きたいところです。結果はともかく、専門分野を超えた多くの信頼できる研究者と連帯できたことは、泥中の蓮の開花のような体験かもしれません(スタインベック『ストロベリー・フィールド』やカミュ『ペスト』も参照)。新島襄先生が、150年も前に良心の価値に着目されたことを、今更ながら慧眼と思いました。それと同時に、永井荷風が、大逆事件の時代に『花火』で描いた自己の立ち位置も、良心の視点から考えさせられました。
学術会議で土壌学の先生たちと話す中で、サンテグジュペリの『人間の大地』を再び繙く機会がありました。印象に残るフレーズが多いこの本の中でも、「精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる」は、掉尾を飾る名言です。このように、人間の民事訴訟法、そして人間の裁判制度・法制度を創っていくために、皆さんと共に、精神の風を巻き起こすことができればと思います。これは政治やイデオロギーの問題ではなく、法と理性と良心、そして人生の問題なのです。
なお、私の「救済法」や「民事訴訟法」の研究については、『民事訴訟過程の創造的展開』、『民事救済過程の展望的指針』、『民事訴訟の簡易救済法理』、『民主司法の救済形式』、『民事訴訟法概説〔第4版〕』(以上、弘文堂)、『差止救済の近未来展望』、『民事訴訟法』(以上、日本評論社)、『公共訴訟の救済法理』(有斐閣)等を、また、法律実務家の養成や法学教育に関しては、『アメリカ・ロースクール教育論考』(弘文堂)、『法学教育の四半世紀』(日本評論社)を、さらに、日本史の中での庶民と裁判のありようについては、 『日本史のなかの裁判』(法律文化社)等を、図書館で手に取ってみてください。さらに、民事裁判のデジタル化を先取りした論考や実証実験の結果を収めた『民事裁判ICT化の歴史的展開』(共著。日本評論社)も、是非参照してください。近時の立法批判と将来展望も収めています。
講義・演習・小クラス
2026年度は、学部では、「民事手続法概論Ⅰ、Ⅱ」、「ADR仲裁法」、「担保権実行法」、「民事訴訟法演習(2,3,4年)」を、大学院法学研究科では、「民事訴訟法演習」、「担保権実行法」、「英文文献研究」、「論文指導」、「特殊研究」、法科大学院では、「民事訴訟法基礎演習」や「ADR法」の授業等を担当します(なお、特殊講義については、2025年度の授業では、ドーデー『月曜物語』の話をせざるをえませんでした。「牢獄の鍵」を、私たちは持ち続ける必要があると考えています。)。学生の皆さんには、今後も、緊張感をもち一期一会的な語らいの中で民事救済手続過程と向き合い、公正なプロセスのあり方を自律的に探究してもらいたいと願います。「片言訟を論ぜず」、「伝聞証拠の禁止」、「反対尋問権の保障」等、今年は証拠法等、手続の価値に深く関わる研究を、皆さんと共に深めて行ければと思います。特にゼミナールでは、自由な雰囲気のもと、友人や家族を大切にできる多様な人材が集まることで、心豊かで刺激的な学びの場ができることを期待しています。
プロフィール
滋賀県生まれ。膳所高校、早稲田大学、一橋大学大学院で学び、東京で職を得て、小樽、熊本、福岡で教え、九州大学大学院教授等を経て、同志社大学教授。日本学術会議会員。博士(法学)。これまで、市民の視点から、「人に対する温かい眼差しをもち社会正義を実現できる法律実務家や良き市民」等の育成に努めてきました。現代のような困難な時代だからこそ、学生・院生の皆さんと共に、政治やイデオロギーを超え、参加者の自由を尊重し、「自由で公正なプロセス」を探求し、「人を大切にする制度」のあり方を考えていきたいと思います。