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法律学科

前提を疑う―憲法思想の研究

助教 戸田 舜樹  TODA Mitsuki, Assistant Professor

専門分野 憲法学・憲法思想
Constitutional law, Japanese Constitutional Thought
研究室 光塩館302
TEL (075)251-3442
E-mail mtoda■mail.doshisha.ac.jp
※■は@に置き換えてください。
業績リスト
List of Research Achievements
助教 戸田 舜樹

私の研究

皆さんの中の何人かは、大学に入学する前、こんなことを考えた経験があるかもしれません。「なぜ、選択的夫婦別姓がいまだに認められないの?」「なぜ、同じ交通事故でも、性別によって逸失利益が違うの?」

とはいえ、こんなふうに、学問の「そもそも」を疑問に思えるようになるためには、一定の訓練が必要です。“日本には憲法14 条や24 条があってジェンダー平等が実現されているから、女性差別はない。”とか、“判例によれば、性別や障害の有無によって逸失利益が異なるのは当然だ。”とか、教えられた知識をもとに正解を導くことが、これまでの「勉強」だったかもしれません。世の中で広く受け入れられている直観をわざわざ疑おうという発想にはなかなかなりませんし、なんでもかんでも疑ってかかることには相応の労力がかかります。バイアス(偏見)は悪いものだ、という印象があるかもしれませんが、予断を持って物事を眺めること―思考をショートカットすること―は、実は、人間の生存にとって欠かせないことであり、バイアスを持つこと自体が悪いわけではないのです。

それでも私が学生時代、最初に叩き込まれたのは「前提を疑う」という批判的思考(critical thinking)の態度です。自然科学の分野では、誰にも知られていない新しい発見をすることが最大の学問的な価値でしょう。しかし、法学の世界で、誰も知らない新事実や証拠を発見するということは、非常にまれです。それよりも、法律を学ぶ皆さんにとって必要なことは、与えられた前提や誰もが信じている常識をまず疑ってみて、可能であれば、それを覆していくことです。

私にとって、「前提を疑う」ために取り組んでいるのが、憲法思想の研究です。よく、歴史を学ぶことが重要なのは、過去から教訓を得るためだと言われます。「過ちを二度と繰り返さないため歴史に学ぶ」という姿勢は大切ですが、私は、それがすべてだとは思いません。歴史とは、私たちの認識や価値観、そして差別や偏見の構造を形作ってきた積み重ねそのものです。だからこそ、蓄積された歴史を掘り起こすことが、いま目の前にある課題を解決する上での手がかりになるのです。

講義・演習・小クラスについて

前期は、新入生が履修する「リーガル・リサーチ」、後期は、「原典講読」と全学共通教養教育科目の「法学」を担当します。

私の授業では、できる限りグループ討論の時間を確保して、皆さん一人ひとりが、自分なりの考えをまとめられるようになることを目指します。自分にとっての常識が、誰かにとっては非常識だったという経験は、多かれ少なかれあると思います。学生に知識を教授することはもちろん教員の義務ですが、学生さん同士で話し合うことが、自分の当たり前を変えていくための絶好の機会になるはずです。

プロフィール

憲法学者の中では珍しい思想研究者です。修士論文研究で鈴木安蔵という憲法学者を取り上げて以降、とくに戦前・戦後の憲法思想の連続性に注目してきました。

思想研究の方法にもいろいろありますが、私は、過去の思想家を、その人物が生きた歴史的な文脈と制約の中で捉えることをモットーにしています。生前の思想家が知りえなかったことについて、きっとこうしたに違いないと想像したり、こんなところに“限界”があると批判したりするのはもちろん自由ですが、過去の思想家に、その人が生きた時代ゆえの“限界”があるのは当然で、それは現代を生きる私たちも同じです。“いま”の時代性と限界を知り、当たり前だと考えられていることを絶対視せず、相対化できるようになることが、歴史研究の醍醐味であり、私がこの研究を続けている理由でもあります。