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政治学科
研究関心及び講義の進め方
「日本の外交と安全保障」
教授 兼原 信克 KANEHARA Nobukatsu, Professor
専門分野 | 国際政治学、安全保障論、外交史
Decision making process of Japan's national security policy and History of Japan's foreign policy |
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研究室 | 光塩館514 |
TEL | (075)251-3433 |
nkanehar■mail.doshisha.ac.jp ※■は@に置き換えてください。 |
私の研究
平成から令和にかけて日本の政治は大きく変わった。昭和前期から日本政治の宿痾であった官僚政治が終わり、政治が主導権を取り戻した。その結果、総理大臣、官房長官、内閣官房の力が上がった。国民のエネルギーを国会で吸い上げ、国会の代表が政府に送り込まれ、政府を指導するという当たり前の民主主義的過程が再生した。また、平成の初めに東西冷戦が終わった。イデオロギーによる東西分断の磁場が消え、厳しく分断され、そのまま固定された日本の国内政治が流動化した。それまで国内の左右勢力のバランスの上に凍結されていた安全保障政策に、少しずつ現実主義が戻ってきた。
日本周辺の安全保障環境も大きく変わった。大日本帝国を滅ぼした米国とソ連が厳しく対峙した終戦直後から、中国が西側との連携を求めた1970年代、そして、ソ連邦が消滅した90年代。周囲の状況はめまぐるしく変わった。今、中国が、その巨体を現し、私たちの期待を裏切って、西側を去り、独自の影響圏創出に野心を見せるようになった。
令和の安全保障政策は、巨大化した中国との関係を安定させ、私たちが革命と戦乱の時代だった20世紀の中から生み出した自由主義的な国際秩序を守ることが求められる。
私は、50歳過ぎまで外交官として外務省に務め、60歳まで総理官邸に勤務して、国家安全保障会議の創出など、政府頂点における安全保障組織の整備に微力を尽くした。また、初めての国家安全保障戦略の策定、日米同盟の強化、自衛隊の能力強化など、安全保障政策の充実に微力を尽くしてきた。
私の国際関係特殊講義では、安全保障組織論として、国家安全保障会議、その事務局である国家安全保障局の義、役割を説明する。その際、平成の時代に起きた総理官邸を中心とする日本政治における政治主導の復権について合わせて説明したい。
また、続いて安全保障政策の基本として、外交と軍事の相関について説明したい。外交なき軍の暴走は亡国への一直線である。大日本帝国はそうして滅んだ。しかし、力の裏付けのない外交は成果を生まない。外交で常に勢いのある強い国家群に立ち位置を取り、地域のあるいは地球的規模での戦略的安定を確保し、利益を調整して紛争の種を摘むのが外交官である。しかし、外交は万能ではない。外交が崩れるとき、軍事的な紛争が発生しないように抑止力を利かせるのが軍人の役割である。外交と軍事の交錯するところが、安全保障である。
日本の安全を保障するには、日米同盟による戦略的安定と軍事的抑止力の確保が柱となる。日米同盟は、戦勝国と敗戦国という非対称な同盟から、インド太平洋地域の自由主義的秩序を支える脊椎に変貌した。日名同盟の歴史と変遷にも目を配った説明をしたい。
そして巨大化した中国をどのように関与していくのか、大切な隣国である韓国の関係をどう進めていくのかについて説明する。また、現在、日本外交の課題となっている歴史問題、領土問題についても説明する。
また、私の特殊講義Bでは、私たちが今享受している自由主義的国際秩序がどのようにして出来てきたのか、なぜそれを守る必要があるのかを考えたい。自由主義的な考え方とは、人間一人ひとりの尊厳の平等と、人は皆幸せになるために生まれてきたということを前提として、言葉と信頼によって社会を作り上げていく、社会の運営のために設けられる政府は、人々の幸せに奉仕する道具であるという当たり前の考え方である。しかし、人類が、自由主義的な国際秩序に至るまで、多くの困難があった。その歴史を振り返り、私たちがどうして自由主義という価値を守るのかということを説明したい。
プロフィール
1959年、山口県で生まれる。東大法学部卒業後、外務省入省。国際法、安全保障、ロシア(領土問題)が専門分野。条約局法規課長(現国際法課長)、北米局日米安全保障条約課長、総合政策局総務課長、欧州局参事官、国際法局長を歴任。国外では欧州連合、国際連合、米国、韓国の大使館や政府代表部に勤務。第二次安部政権で、内閣官副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。2019年退官。趣味は、読書とオペラ、クラシック鑑賞。