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政治学科
イギリスにおけるナショナル・アイデンティティ
教授 力久 昌幸 RIKIHISA Masayuki, Professor
専門分野 | 現代イギリス政治
British Politics, Territorial Politics |
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研究室 | 光塩館521 |
TEL | (075)251-3315 |
業績リスト
List of Research Achievements |

私の研究
イギリスを中心にヨーロッパの現代政治に関心を持っています。イギリス,すなわち「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」は,日本のような単一国家ではなく,イングランド,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドという四つの領域によって構成された連合国家です。イギリスでは2016年に行われた国民投票でブレグジット(EUからの離脱)が決まったのですが,四つの領域において異なる投票結果となりました。イングランドとウェールズでは離脱が多数,スコットランドと北アイルランドでは残留が多数となり,イギリス全体では僅差で離脱多数という結果になったのです。
このようにEU国民投票では領域によって異なる投票が見られたわけですが,その背景としてナショナル・アイデンティティが無視できない影響を与えていました。たとえば,イングランドではイングランド・アイデンティティが離脱投票と密接に結びつき,スコットランドとウェールズではスコットランドとウェールズのアイデンティティが残留投票と結びついていました。さらに,北アイルランドでもアイルランド・アイデンティティと残留投票は密接に関連していました。
イギリスではそれぞれの領域ごとに固有のナショナル・アイデンティティとともに,イギリスという国家全体に関係するイギリス・アイデンティティという五番目のナショナル・アイデンティティもあります。興味深いのは,四つの領域にはそれぞれイギリス・アイデンティティを持つ人々が一定数いるのですが,そうした人々が国民投票で同じような投票をしたかといえば,必ずしもそうではなかったということです。すなわち,イギリス・アイデンティティを持つ人々の多くが,イングランドでは残留投票したのに対して,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドでは離脱投票していたのです。
単一国家における単一のアイデンティティとは異なり,連合国家イギリスにおいては複数のナショナル・アイデンティティが政治に対して複雑な影響を与えています。ナショナル・アイデンティティをめぐる政治が,イギリスの将来をどのように形作っていくのか注目していきたいと思っています。
講義・演習・小クラスについて
講義については,「比較政治」,「近代ヨーロッパ政治史」,「現代ヨーロッパ政治史」を担当します。「比較政治」では,主としてヨーロッパ諸国の政治について,民主主義,議会と執政府,福祉国家,政党などを中心に比較検討を行います。「近代ヨーロッパ政治史」では,19世紀から20世紀前半にかけての近代イギリス政治を中心に,同時代のヨーロッパの政治経済状況を踏まえて概観します。「現代ヨーロッパ政治史」では,戦後のイギリス政治について検討しますが,特にブレグジットなどイギリスとヨーロッパの関係に注目します。演習では,イギリスや他のヨーロッパ諸国,そして,EUなどを中心に,ヨーロッパ政治の現状を分析します。なお,演習受講者にはそれぞれゼミ論文を書いてもらいます。ゼミ論文の執筆は骨が折れる作業ですが,社会人になって活用できる論理的思考力を身につけるうえで大きな意味があると思います。プロフィール
福岡県出身です。京都大学大学院法学研究科修了後,北九州市立大学法学部を経て,2005年に同志社大学法学部の一員となりました。さて,昨年は世界で重要な選挙が数多く行われました。10月には日本の総選挙がありましたが,それ以外にも,イギリス,フランス,インドの総選挙に加えて,EUの欧州議会選挙とアメリカの大統領選挙も行われました。このうち,専門が現代イギリス政治なので当然かもしれませんが,7月に行われた総選挙の行方に強い関心を持っていたので,授業を1週間休講にしてイギリスに行ってきました。保守党から労働党への14年ぶりの政権交代を現地で見ることができたのはよい経験となりました。