同志社大学 法学部・法学研究科

法律学科

校祖昇天年制定「日本民事訴訟法」研究
―「4つのJ」と「人生を学ぶ民事訴訟法学」を求めて

教授 川嶋 四郎

教授 川嶋 四郎
専門分野民事訴訟法
研究室光塩館501
 業績リスト

私の研究:学生の皆さんへ

 私は、これまで民事訴訟法を中心として、民事救済法、民事執行・保全法、倒産法、ADR(訴訟外紛争解決手続)、環境訴訟法、司法制度論等をトータルに研究し、教えてきました。これは、法的な救済を求めて紛争解決過程を利用する人や企業さらにはその相手方とされる人や企業が、手続過程における十分な対論を通じて、どのように「救済」を得ることができるかを探求する果てしなき営みです。
 日本で最初の近代的な民事訴訟法が制定されたのは、1890年(明治23年)。すなわち、私たちの校祖、新島襄
先生が天に召された年です。私は、目に見えない何かの縁に導かれて、この同志社でその民事訴訟法を教えることになったように思います。先生の志を、その講義やゼミを通じて実現する使命が与えられたのかも知れません。今ここに居ることが、私にとっては奇跡のように感じられるからです。
 4年に一度のオリンピックの年になりました。前回の東京オリンピックが行われた年、私は重い病気のために入院していました。オリンピックと聞くと、聖火ランナーの白い煙を見たといって病室に戻ってきた人たちの明るい話し声と死への恐怖を思い出します。そして、今生きていることを多くの人々に心から感謝するのです。「不易流行」という言葉が示しているように、時の経過とともに、変わるものもあれば変わらないものもあります。民事訴訟は、市民間の紛争を最も公正かつ適正に解決することが可能な最後の手段であることは、時代を経ても変わりません。価値観が多様化した複雑な現代社会でこそ、決して排他的ではなく、多くの紛争を包摂的に受け入れ調整し解決できるプロセスが開かれていなければならないでしょう。
 格差と差別と排除に象徴される現代では、特に蕪村の言葉を借りて、「この泥が あればこそ咲け 蓮の花」と言いたいところです。私にとっての「蓮の花」は、学生の皆さんであり、日本の裁判所、そして司法を支えるすべての人や組織なのです。「良心教育」のもと、「底辺に向かう志」をもって地に生きる私たちは、「国家有為の人材」を育てる旧帝官学とは全く別の道を、市民のために歩んでゆかねばなりません。私がこの道に進むきっかけを与えてくださった、新堂幸司先生の体系書では「利用者のための民事訴訟法理論」が目指されていますが、最近のこの領域の学問は、だんだんそこから遠ざかっているようにも思われます。だからこそ、私たちは、それを官や学者の視点からではなく、文字通り利用者である市民の視点から実現してゆかなければならないと信じています。西洋では古くから「良き法律家は悪しき隣人」などと言われてきましたが、そんなことはあってはなりません。隣人のために良き法的救済をサポートできる者こそが、良き法律家であるべきだからです。私は、民事訴訟法を学ぶことは人生を考え学ぶことに似ていると思っています。ダイナミックに展開するプロセスを知り学ぶことを通じて、学生の皆さんには、人生の何か大切なものを見つけてもらえればと願っています。たとえば井上靖『敦煌』で、「知」のために、塗り込めた穴蔵に経典を隠した人々のように、民事訴訟法の学びを通じて、後世の人々に多少なりとも「知の恩送り」が可能になればと思います。
 かつて内村鑑三は、「2 つのJ(Jesus とJapan)」をその思想の中核に据えましたが、同志社で私の専門に照らして考えれば、「4つのJ」になるかも知れません。Joe 先生とJustice(司法)が加わるからです。抽象化すれば、それらは「日本、愛、良心、正義」と言うこともできます。このような「J」について真面目に語れる民事訴訟法学を、皆さんとともに考えてゆければと願います。
 なお、多少とも私の「救済法」や「民事訴訟法」の研究に関心をもつ人は、『民事訴訟過程の創造的展開』、『民事救済過程の展望的指針』、『民事訴訟法概説〔第3版〕』(以上、弘文堂)、『差止救済の近未来展望』、『民事訴訟法』(日本評論社)、『公共訴訟の救済法理』(有斐閣)等を、また、法律実務家の養成に関しては、『アメリカ・ロースクール教育論考』(弘文堂)を、さらに、日本の歴史の中での裁判のありようについては、『日本人と裁判』(法律文化社)などを、図書館で手に取ってみてください。

講義-演習・小クラス

 2020年は、学部では、「民事手続法概論」、「ADR・仲裁法」、「担保権実行法」、「民事訴訟法演習(2、3、4年)」、特殊講義として「アメリカ民事手続法Ⅰ・Ⅱ」、「裁判と文学Ⅰ・Ⅱ」、「民事訴訟法」などを、大学院では、各種の民事訴訟法演習等、法科大学院では、民事訴訟法演習やADR関係の授業等を担当します。学生の皆さんには、緊張感をもち一期一会的な語らいの中で民事救済手続過程と向き合い、公正なプロセスのあり方を探究してもらいたいと思います。
 特にゼミでは、自由な雰囲気のもと、友人や家族を大切にできる多様な人材が集まることで、心豊かで刺激的な学修の場ができることを期待しています。

プロフィール

 1958年に滋賀・甲賀で生まれ、膳所高校、早稲田大学法学部、一橋大学大学院で学び、様々な大学で教え、九州大学大学院教授を経て故郷の近くに戻ってきました。九大法科大学院では、「人間に対する温かい眼差しをもち社会正義を実現できる法曹等(他者配慮に充ちた献身的な法曹等)」の育成に努めてきましたが、これからも、そのような考え方を基調として、学生・院生の皆さんとともに、「自由で公正なプロセスの探求」を続けてゆきたいと思います。