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法律学科

不法行為法(損害賠償法)の目的と機能

准教授 野々村 和喜

専門分野 民法
研究室 光塩館519
TEL (075)251-3575
E-mail knonomur■mail.doshisha.ac.jp
※■は@に置き換えてください。
准教授 野々村 和喜

私の研究

民法のなかでも、とくに不法行為法(民709-724)が私の主たる研究領域です。条文数こそ少ないですが、日々膨大な事件量をこなす重要な法制度です。民法709条が不法行為法の一般原則を定めていますが、特別な法律の知識がなくても、条文を読むだけでおおよその意味はイメージできるでしょう。

不法行為法は、見た目は刑法とよく似ていて、用語や概念にも似たものが数多くあります(故意、過失、行為、因果関係など)。しかし、両者が目指す制度目的(何のためにこのような法制度が用意されているのか)はずいぶん違うようです。刑法は、犯罪をおかした者に刑罰を課すことで「犯罪を抑止すること」を目的としています。これに対して不法行為法は、個人に生じた「損害を填補すること」が目的で、この目的のために損害賠償責任という手段を選択しているにすぎないと言われてきました。賠償を命じられる者は、「非難に値する行為をしたから」制裁として損害賠償責任を課されるのではなくて、「損害を填補させるのに最適な人物だから」賠償責任を負担させられるのです。

それでは、損害を填補させるのに「最適な人物」とはどうやって決まるのでしょう?まず、少なくとも自分が生じさせたのでない(因果関係がない)損害について賠償責任を負わされることはないはずです。しかし、逆に因果関係さえあれば賠償責任を課すのに最適といえるでしょうか?そんなことをいったら、自動車やバイクが道路を走らなくなりそうです。まんがいち交通事故でも起こそうものなら、いくら注意深く運転していたとしても賠償責任を課されてしまいますし、仮に絶対に歩行者にぶつからない安全自動車が開発されても、おそらく庶民の手に届く価格ではないでしょう。すくなくとも私は、そんな不便な世の中になって欲しくはありません。

損害賠償責任を課すということは、その種の行為を控えさせたり、その種の行為の安全性にお金をかけさせるインセンティブをもたらします。つまり、不法行為責任(損害を填補させるのに最適な人物は誰か)を考えるということは、損害を発生させる危険性がある行為をどこまで許容するのが良いのか、どのような損害の危険性を世の中からなくしていくべきだろうかといった問題を、社会政策的な観点から(現在および未来の世の中をどうしていくべきかという観点から)考えていかなければなりません。

こう考えると、不法行為法の目的は損害の填補(もっと抽象的に表現すれば、当事者間の不正を是正するための制度)であって、将来の行為をコントロールするための制度ではない、という伝統的な理解は、必ずしも自明のこととは言えない可能性があります。このような観点から、不法行為法の理論的展開、判例の判断内容、比較可能な外国での議論の趨勢を観察し、日本の不法行為法のあり方を根本的なところから考えていこうというのが、私の研究です。

演習・小クラスについて

新入生の皆さんとは、他の民法スタッフと一緒に民法概論でお会いします。法学のスタートをスムーズに切るには、国語の授業で言うところの『説明文』を読む力、それから、自分の理解を確認・補正したり定着させるために積極的に質問、発言できる少しの度胸が必須です。法律の学習は、ただおとなしく聞いているだけではなかなか前進できません。最初は戸惑うことが多いと思いますけれど、みなさんと楽しく前に進めればと思います。

また、毎年、香港とウィーンで開催される国際商事模擬仲裁の世界大会(模擬裁判のようなもの)に出場する特殊講義も担当しています。タフなチャレンジですが、決して他では得られない達成感と自信が身につきす。中学英語レベルと少しの度胸があれば十分に挑戦可能です。世界に羽ばたけ、同志社法学部生!!!

プロフィール

山口県山口市生まれ。同志社大学法学部、同大学院法学研究科を経て、現在に至る。2015~2017年度にハンブルク(ドイツ)にて在外研究。