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法律学科

契約法の分野における不可抗力の意義

教授 荻野 奈緒

専門分野 民法
研究室 光塩館527
TEL (075)251-4881
  業績リスト

私の研究

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行によって各国で「不可抗力」概念に注目が集まり、契約法の分野では、このパンデミックやそれに対応するために政府が執った措置が「不可抗力」にあたるかが問題になっています。

たとえば、COVID-19の流行により海外の工場が操業を停止したため、売買の目的物を調達できず、期日までに引渡しをすることができなかった売主は、買主に対して債務不履行による損害賠償責任を負うのでしょうか。日本では、「不可抗力」は債務不履行責任の免責事由として位置付けられており(民法419条3項参照)、免責事由の有無は「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになっていますが(415条1項ただし書)、どのような要件をみたせば「不可抗力」にあたるのか、債務者が免責されるのかは、必ずしも明らかではありません。

また、たとえば、COVID-19の流行により行動制限措置がとられたため、旅行に出かけることができず、予約していたホテルに宿泊できなくなった旅行者は、ホテル代を支払わなければならいのでしょうか。この場合、旅行者は、自らの債務を履行することができない(ホテル代の支払いをすることができない)のではなく、相手方が提供する給付を受領ないし利用することができない(ホテルの部屋に宿泊できない)状況にあります。そこで問題になるのは、債権者が不可抗力を援用して契約からの解放を主張することの可否です。

不可抗力事象によって債務の履行が妨げられているのか、債権者による給付の受領ないし利用が妨げられているのかの判断が難しいように思われる事例もあります。たとえば、店舗を借りて営業している飲食店が緊急事態宣言発出中の休業要請に応じた場合について、賃貸人が店舗を使用させることができなかったとみるべきでしょうか、それとも賃借人が店舗を利用することができなかったとみるべきでしょうか。
前者のように考えれば、賃貸人が賃借人に賃借物を使用・収益させることができなくなった以上、賃借人は賃料を支払う義務を負わないと解することもできそうですが(民法611条1項参照)、後者のように考えるなら、賃借人は賃料を支払う義務を免れないのが原則だということになりそうです。

私の研究は、不可抗力事象が契約関係に与える様々な影響の分析をふまえて、契約法の分野における「不可抗力」の件・効果や、位置づけを明らかにしようとするものです。

講義・演習・小クラスについて

2023年度は、2年次・3年次・4年次演習、民法概論、民法Ⅱ(物権)、民法Ⅲa(債権総論①)、消費者法などの科目を担当します。
講義では、法的ルールの内容や解釈上の議論を正確に理解することが主な目標であるのに対し、演習などの小クラスでは、具体的事例に即して検討すること(法的ルールを使いこなすこと)や、判例や学説を批判的に検討することが求められます。そのためには、判例や学説を調査・整理することのほか、自分なりに考えてみることが必要になりますし、他と議論することも重要です。受講生のみなさんには、失敗を恐れず積極的に議論に参加して、理解を深めてほしいと思います。

プロフィール

1996年に同志社大学法学部に入学、1998年に(旧)司法試験に合格。
2000年に大学を卒業した後、司法修習(54期)を経て、6年半ほど京都で弁護士をしていました。 2004年から同志社大学大学院法学研究科で学び、2009年度から同志社大学法学部助教、2012年度から同准教授、2018年度から同教授。比較法の対象はフランス法で、2012年秋から2年間、パリ政治学院で在外研究をしました。