同志社大学 法学部・法学研究科

法律学科

民事責任法における契約の領分

教授 荻野 奈緒

専門分野民法
研究室光塩館527
TEL(075)251-4881
 業績リスト

私の研究

 今日の複雑な社会では、契約利益が第三者によって侵害され、あるいは、契約不履行によって第三者が損害を被る場面が多くみられます。例えば、建築会社Aに自宅建物を建築してもらったBが、資金繰りに困って、その建物をCに売ったとします。ところが、その後、Aが手抜き工事をしていたせいで、その建物には重大な欠陥があり、多額の修繕費用がかかることが判明したとしましょう。さらに、その建物が倒壊して、通行人Dが怪我をするという事態も生じるかもしれません。
 このような場面を法的に分析してみると、Cは、Aの手抜き工事のせいで、Bとの間の売買契約によって得られたはずの利益を得られていないということができます。また、見方を変えれば、AがBとの間の請負契約をきちんと履行しなかったせいで、CやDが損害を被ったということもできます。そして、CやDはAと契約関係にありませんから、彼らがAの責任を問おうと思うと、不法行為による損害賠償を請求することになりそうです。根拠条文は、民法709条です。CはBと契約したのだから、Bの責任を追及すれば十分ではないかと思われるかもしれませんが、Bは資金繰りに困って建物を売った人ですから、資力不足で賠償金を支払ってくれないかもしれません。ですので、Cとしては、Aの責任も問いたいわけです。
 それでは、CやDは、Aの不法行為責任を追及できるのでしょうか。AはBとの間の請負契約を履行していませんが、そのことはCやDとの関係で「過失」と評価され得るのでしょうか。また、Cは、Bとの間の売買契約上の利益を得ようとしているようにも思えますが、それを契約当事者ではないAに求めることが許されるのでしょうか。それとも、Cが賠償を求めている損害は、契約上の利益とは別のものと評価されるべきものなのでしょうか。
 仮に、これらの問題をクリアーできたとした場合、AはCやDに対して不法行為責任を負うことになりますが、そのとき、Aは、Bとの間の請負契約上の特約(例えば、損害賠償の額の上限を定める条項)を主張することで、その責任の一部または全部を免れることができるのでしょうか。CやDの請求が不法行為に基づいている以上、Aが彼らに対して特約を主張することはできないようにも思えますが、他方で、AはBから損害賠償請求をされた場合に備えて予め特約を定めていたわけで、たまたま第三者から損害賠償請求された場合には特約を主張できないとなれば、Aが不当に害されるようにも思えます。
 以上のような場面においては、当事者が契約で定めたルールと、民法が不法行為責任に関して定めているルールとが交錯しているということができます。私の研究は、このような場合に、契約規範と法規範との棲み分けないし調整をどのように図るべきかという問題に取り組むものです。

講義・演習・小クラスについて

 2022年度は、2年次・3年次・4年次演習、民法概論、民法Ⅰa(総則①)、民法Ⅲa(債権総論①)、消費者法などの科目を担当します。
 講義では、法的ルールの内容や解釈上の議論を正確に理解することが主な目標であるのに対し、演習などの小クラスでは、具体的事例に即して検討すること(法的ルールを使いこなすこと)や、判例や学説を批判的に検討することが求められます。そのためには、自分なりに考えてみることが必要になりますし、他と議論することも重要です。受講生のみなさんには、失敗を恐れず積極的に議論に参加して、理解を深めてほしいと思います。

プロフィール

 同志社中学校・同志社高等学校を卒業後、1996年に同志社大学法学部に入学。1998年に(旧)司法試験に合格。2000年に大学を卒業した後、司法修習(54期)を経て、6年半ほど京都で弁護士をしていました。2004年から同志社大学大学院法学研究科で学び、2009年度から同志社大学法学部助教、2012年度から同准教授、2018年度から同教授。比較法の対象はフランス法で、2012年秋から2年間、パリ政治学院で在外研究をしました。
 趣味は、美味しいものを食べること・つくること、旅をすること。