以下、本文になります
研究者をめざすあなたへ
「研究者」の道へ進んだ卒業生から皆さんへ
自分が打ち込める研究テーマに出会おう(静岡大学人文社会学部法学科・2012年3月法学研究科私法学専攻博士後期課程退学)
学生時代の特権は、何よりも多くの書籍、文献に触れて、自分の頭で咀嚼しながら、考える時間を持つことができることだと思います。法学部生の皆さんは、演習のクラスなどで、社会に対する自分の問題意識を仲間と積極的に議論をし、自分の考えを論理的に表現する場も持っています。研究を仕事としてみたいと考えるにいたった方は、ぜひ、将来にわたって長く追究していきたいと思うようなテーマを定める努力をしてみてください。現在、法律学の研究職をめざそうとする場合、大別すると二つのルートがあります。一つは、学部卒業後に研究者養成のための法学研究科の博士課程に進学する道、もう一つは学部卒業後、法科大学院に進学し、その後に博士課程に進学する道です。もちろん、学部卒業後、社会人経験を積んでから、研究科に進学して論文の執筆に取り組む場合もあります。自分が打ち込める研究テーマに出会い、論文を執筆することで社会の現状を変えていきたいと思うモチベーションがあり、受け入れてくれる研究機関や指導教員に出会えば、いつから始めても良いと思います。
学部時代と研究科での生活の大きな違いについてですが、学部時代は邦語文献の読み込みが中心で、研究科ではじっくり腰を据えて外国語文献を読み込み、自分の研究テーマと向き合うことが必要となります。院生時代には、学部の頃よりも留学のチャンスも身近にあったように思います。私も院生時代にアメリカのロースクールのサマープログラムに参加し、他大学の院生のみならず様々な国の研究者、法律実務家、企業の方に接する機会を持ちました。また、大学院生の頃は、学部時代よりも奨学金や研究助成、TA の機会なども充実していたようにも思います。
コロナ禍において、大学の状況も刻々と変化し、オンライン化も促進されています。これからの研究者は、オンラインでの研究報告の機会も増えてくるでしょう。学生時代のあらゆる経験が、将来役に立つと思います。
研究者になるために(富山大学経済学部・2017年3月法学研究科私法学専攻博士後期課程修了)
皆さんには、私のこれまでの経験から、研究者をめざすにあたって学部生のうちからやっておくべきことをお伝えしたいと思います。まず一番にお伝えしておきたいのは、授業は可能な限りたくさん、幅広く受けておくべきだということです。大学というのはとても恵まれた環境です。教室に座っているだけで、さまざまな分野の知識を得ることができます。研究者になってから、「あの授業を履修しておけばよかった」、「もっとちゃんと聞いておけばよかった」と思うことが少なくありません。ぜひさまざまな授業を受けて、幅広い知識を習得しておいてください。
さて、研究者の仕事の1 つは、論文を書くことです。論文は、他の人に読んでもらうために公表します。ということは、いくら素晴らしい内容であったとしても、それがうまく表現されておらず読者に理解できなければ意味がありません。文章力を磨くために重要なことは、たくさん文章を読むこと、そして、日頃から読み・書きにおいて文法や文章表現に気を付けることです。またこの着眼点は、論文を書くために、他の人が書いた本や論文を読んだり、判決文を読んだりするときの注意にもつながります。文章が多義的になってしまうことはどうしてもあります。
他の人が書いた文章を読む際には、その人が言いたいことは何なのかを注意深く考え、意味を読み取る必要があります。
多くの法分野では、日本の研究者の研究は、日本の法のもとで生じる問題について解釈論や立法論の観点から解決策を示すことを目的とします。しかし、だからといって、日本における議論や裁判例だけを見ていればよいというわけではありません。研究者をめざす方の多くが進学されるであろう法学研究科前期課程の最終目標である修士論文には、独創性が求められます。日本法の研究として独創性を付加できる1 つの方法は、これまでにされていない外国法との比較をおこなって知見を得るという方法です。そのためには、比較対象とする国の法制度を知った上、その国の論文や裁判例を調査しなければならず、外国語を理解する能力が必要になります。日本語でも法律の世界では特殊な言葉が多く使われていますが、それは外国語でも同じで、見慣れない単語・熟語が使われていたり、よく知っている単語でも違う意味で使われていたりします。その一方で、文法は共通しています。その上、法律系の論文や裁判例を読んで理解するためには、文法がきちんとわかっていることが重要になります。なので、まずは英語や第2外国語の授業で基本をしっかり押さえておきましょう。
研究者をめざす人は少数派ですし、最低でも4年は周りの人より就職が遅くなることから、研究者をめざすことに不安を覚える人もいるかもしれません。大学院での研究や就職などの具体的なことは、指導教員となる先生と相談されることをお勧めします。とりあえずここでは、私にとって大学院生活は、しんどくも楽しく、あっという間だったと、最後にお伝えしておきたいと思います。
研究者になるために(島根大学法文学部・2019年2月法学研究科私法学専攻博士後期課程退学)
私は2019年3月から島根大学に専任講師として勤務しています。研究者としてスタートラインに立ったばかりですが、これまでの経験を通して研究者を目指すにあたって重要だと思うことについてお伝え出来たらと思います。法学の研究とは具体的に何をしているのか疑問に思う人も多いかもしれませんが、法学の研究で一般的なのは外国法との比較研究です。例えば、私は民法の家族法が専門ですが、ドイツの家族法との比較研究を行っています。比較するためには、まず日本の家族法について十分に理解する必要があります。このように研究において重要なことの一つは、自分の興味のある分野の法律について深く学び、知識を身につけることです。もっとも、そのためには他の法分野についての知識もなければいけません。例えば、家族法であれば、民法だけでなく民事訴訟法や家事事件手続法、人事訴訟法といった手続法のほか、憲法についてもしっかり学んでいなければ十分に理解できないことが多々あります。私はこれが不十分であったので、大変後悔しています。ですから、これから研究者を目指そうと思っている人は、日々の講義をきちんと受けて、できるだけ多くの法律について幅広い知識を身につけてください。
また、外国法との比較を行うためには、その外国法について読解する能力が必要になります。研究において重要なことの二つ目は、外国語能力です。外国の判例や論文を読み込んで理解して、さらに日本法と比較できなければいけません。日本の判例や論文でも理解するには時間がかかりますが、外国語となると法律用語は難解でより困難です。ですから、研究者を目指そうと思っている人は、ぜひ早いうちから外国語能力を磨いてください。
さらに、単に研究を行うだけでなく、研究成果を論文や報告などを通して公表することが求められます。研究者になるためには、大学院の法学研究科(博士前期課程)や法科大学院に進学し、さらに博士後期課程に進学する必要がありますが、法学研究科では特に、一つの裁判例や論点について様々な観点から考察し、報告や論文執筆を通して研究成果を公表する力を養うことができます。もちろん学部生の段階でも日々のゼミ活動や「法と政治のディスクール」等の執筆を通してこうした能力をつける機会が沢山用意されていますので、ぜひ積極的に活用してください。
最後に、多くの学生が学部を卒業し就職していく中で研究を続けるのは、金銭的にも精神的にもつらいことが多々あると思います。もっとも、研究を支援してくれる団体や機関はいくつもあります。また、外部の資金を調達して研究を遂行した場合には、自分の自信や実績にも繋がりますので、研究助成の公募にも積極的にチャレンジしてみてください。